NeverLand Musical Factory
SAKAI KAZUNARI
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  • 登場人物 3人 (女性のみ)
  • 上演時間 約1時間
  • 執筆時期 2018年2月ごろから、初演を経て10月20日におおむね最終版が完成
    • NeverLand Musical Factoryの公演を終えて、「次何する?」なんて話を飲みながらしていた時に出てきたアイデアが膨らんでできていきました。最初は、人質を取って立てこもるけど、自分も一緒に閉じ込められてしまう間抜けな犯人、みたいなところからスタートだったと思います。
    • 当時出演予定者が二人だったので、その数で何とかなる設定を次々あげていく中で、人質と犯人、という話になり、どこに立てこもるか、なぜ立てこもるかを考えているうちに、結婚披露宴を明日に控えた会場を思いついた感じです。
    • 少し書き始めてから出演者が3人になり、一気に話が膨らみました。もしあのまま二人だったらと思うと、ぞっとしてしまいます。
    • 音声入力装置のアイデアは、しょっちゅう誤動作をして突然返事をする、うちのスマートスピーカーのおかげです。
    • 桃マンは、飲み会でのギャグが採用されました。次々出てくる余興の名前は、酒井の趣味です。今まで参加した驚くような披露宴の記憶が、ちょっとだけ全体に漂っています。
    • 挿入歌は、1曲を除きこの台本のための書き下ろしです。最初に歌い手とテーマ、雰囲気を決めてから作りました。
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  • 2019年10月7日
  • NeverLand Musical Factory
  • 千葉県 君津市民文化ホール
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  • スマホ等では読みにくいと思いますが、お許しください。


    ウエディング・ベルが鳴る前に
                        作 酒井 一成
                        ※この台本の無断上演を固く禁じます※
     
       明日に披露宴を控えた深夜の披露宴会場
     
    司会  それではお待ちかね、新郎新婦の入場です!
     
    歌 ウエディング・ベル
     
     幸せは歩いてこない だからダッシュでいくんだよ
     本命穴馬かきわけて 美しく そしてはしたなく ゆけ!夢!
     ほれたはれたの大騒ぎの果て やっと鳴らしたウエディングベル
     一度限りの人生だもん やったもん勝ちの人生だもん ゆけ!夢!
     未来のことなんて結局誰にもわかんない
     自分でつかまなきゃ神様も笑ってくれない
     勝負はこれから つないだ手を離すもんか!
     つらい過去ならさらりと捨てて 真っ白なドレス似合うでしょ
     ラブラブいちゃついちゃうもんね 二人で年老いちゃうもんね ゆけ!わたし!
     
     がんばる!しあわせ! ウエディングベルは始まり
     誰にも負けない気合いと根性 しとやさかならしたたかに
     だってがんばってきたんだもん ご褒美だってもらえるでしょ ゆけ!あたし!
     ゆけ!ふたり!ゆけ!ゆけ!
     
    司会  みなさま、お待たせいたしました。披露宴のハイライト、宴会に咲いた大輪の
       華、本日のメインイベントのひとつ、お二人の初めての共同作業、といえばおわ
       かりですね、そう、そのとおり、それです、まさにそれです。さあ、皆様ご一緒
       に!ウエディングケーキ入刀です!カメラをお持ちのみなさま、そこの君、そこ
       のあなた、そこにいるかわいい女の子、そこらにいる不細工な独身者!カメラを
       持って、いえいえ、スマホでも結構です、ガラケー問題なし、さあ、遠慮をする
       ことはございません、ずずずいっと前にお寄りになって、あ、隣の人を肘打ちし
       ないでくださいね。あ、身長に問題がある方は、どうぞ前の方へ、どうそどうぞ。
       あ、そこのでっかいのは後ろね。下がれっていってるんだよ。いいだろ、でかい
       んだから。どうぞ、お二人の幸せを、輝くばかりの幸せを、みました?この幸せ
       そうな笑顔!
     
      どこかで「うううっ」と声がする。
     
    司会  さあ、いよいよ、ついに、とうそう、さあ、ウエディングケーキ、にゅーとー
       どぉえす!
    上司  カット!
    司会  あれえ?
    上司  何度言ったらわかるの?えっ、何度言ったらわかるの!
    司会  はあ。
    上司  ウエディングケーキじゃないでしょ。ウエディングケーキじゃないの。
    司会  ああ、そうでした。
    上司  そうでしたよね。そうでした。明日の新郎新婦は、ファンキーなの。ファンタ
       スティックなの。クリエイティブなの、オリジナリティなの。だから、ウエディ
       ングケーキなんて、ありきたりのものでは満足できない新郎新婦なの。おわかり?
    司会  おわかりです。
    上司  なんだっけ?ウエディングケーキじゃなくて何だっけ?
    司会  桃まんです。
    上司  大きな声で。
    司会  桃まんです。
    上司  そう、桃まん。こーんなでっかい、桃まん。デカ桃まん。わかる?桃まんって
       わかる?
    司会  桃のまんじゅうです。
    上司  そう、桃まん!さあ、いってみよう!レッツ、ゴー!
    司会  それではお待ちかね、ウエディング桃まん入刀でございます。さあ、そこのあ
       なた、そこの君、あそこの彼、そこらの彼女!ずずずっとウエディング桃まんに
       近づいて、包丁を振りかざした幸せそうなお二人の笑顔を・・
     
      どこかで「うううっ」と声がする。
     
    上司  あんた、滑舌悪いね。桃まん、言いにくい?
    司会  言いにくいです。
    上司  あのね、人生一度のウエディング桃まん入刀なのよ。二人の初めての共同作業
       なのよ。そこで司会者にかまれたらどうするの。どうなるの。あんた、肝心なと
       きに桃まんが言えなかった司会者として、二人の幸せな人生に真っ黒な影を落と
       すのよ。あなたのその無能な口が、二人の幸せに!
     
      どこかで「うううっ」と声がする。
     
    上司  それでもいいの?
    司会  いやです。
    上司  じゃあ練習。すもももももももものうち!
    司会  すもももももももものうち!
    上司  桃が割れたら桃太郎桃まん切ったらモモマンマン!
    司会  桃が割れたら桃太郎桃まん切ったら桃まんマン!モモマンマンって誰ですか?
    上司  アンパンマンの友達だ。・・・知らないのか。
    司会  知りません。・・・今作ったでしょ。
    上司  はい、続き。
    司会  あ、ごまかした。
    上司  続き!
    司会  今、ウエディングケーキ、じゃない、桃まんに、桃まんに、包丁、じゃあなく
       てナイフが入りました。さあ、シャッターチャンスです。みなさま、今です。
       ・・・お見事!すっぱり割れた桃の中からは、まるまると太った桃太郎・・・で
       はなく、数え切れないほどのマメ桃まんが飛び出しました。これは、新郎新婦か
       らの、気の利いたサプライズプレゼントです!のちほど、みなさまのテーブルの
       上にお届けいたします!お二人の幸せのおすそわけ、甘―い甘―いお味をお楽し
       みください。
     
      またもどこかで「うううう」と声がする。
     
    司会  さらに、さらにサプライズ、桃太郎・・ではない、マメ桃まんの中にひとつだ
       け、たったひとつだけ、実は、なんと、実は、驚くべきことに、たったひとつだ
       けオンリーワン、モモマンマンがいるのです!なんと!・・・いましたね、モモ
       マンマン。
    上司  君は、台本を読んでないね。
    司会  だって、まさか桃まんとか思わないじゃないですか。
    上司  新郎の趣味だ。
    司会  色ですかね、形ですかね。あ、おしりフェチかも。
    上司  味が好きなのかもしれない。
    司会  いやだ、エッチ。
     
      上司の電話が鳴る。
     
    上司  はい。あ、大丈夫です。、もしもし・・・今、確認中で。大丈夫です、大丈夫
       です。これでもプロですから。え、桃まん、高さ1メートル20センチじゃな
       い?1メートル45センチ?それ、どっちでもよくないですか?あ、わかりまし
       た。台本に入れておきます。大丈夫です、あれはドジバカカメブスゲスチビです
       けど、わたしがついてますから。え、裏口?ちょうどよかった?あの、松井さん、
       それ、超過勤務ですよ。いいです、いいです。今度おごってもらっちゃおーか
       なー。はいはい、貸しにしときます。はあい。
     
      電話を切る。
     
    上司  裏口。荷物。運ぶ。レッツ、ゴー!・・・何いじけてるんだ。
    司会  最後のが一番傷ついた。
    上司  なにが?
    司会  ドジ・バカ・カメ・ブス・ゲス・チビ。
    上司  思いついたことを言っただけだ。はい、裏口、荷物・・・・わかった、一緒に
       行く。
    司会  許してやろう。
     
      二人、裏口方面へ去る。変わって女が出てくる。
     
    女   桃まんって何?桃まん!なぜ桃まん!昔、彼は言ってくれた、「君は僕のピー
       チ姫だ」。ゲームをやったことのないわたしは、ピンク色の何かを想像して、ひ
       とりで赤くなっていた・・・だから、桃!・・違う!・・数え切れないミニ桃ま
       んと、その中に混じったたったひとりの桃まんマン。桃太郎ではなく桃まんマン。
       馬鹿なのか?この新婦は馬鹿なのか!何が、幸せそうな笑顔だ!・・・ううう。
     
      遠くから、「これ運ぶんですか!」と声が聞こえる。
     
    女   だいたい何だ、あいつら。何やってるの、こんな時間に。ったく、明日は本番
       だって言うのに、何、ここ。机といすだけずらーっと並んで、これ、会議室か?。
       普通準備しないか?テーブルクロスとか、花とか、屏風とか。ゴンドラとか、ろ
       うそくとか。平台と箱馬だけって何?明日は、披露宴なんだろ、披露宴だろ!
     
      沈黙。
     
    女   これじゃ、仕込みに困る。
     
      そこへ、司会が大きな箱を持ってやってくる。
     
    司会  あれ?
    女   おや?
    司会  どなた様ですか?
    女   どなた様と言われましても・・・
    司会  は!
    女   なに?
    司会  もしかして、あやしい人ですか?
    女   とーんでもない・
    司会  では?
    女   通りすがりの峰不二子です。
    司会  はあ?
    女   だから、通りすがりの峰不二子?
     
      そこへ、上司が入ってくる。
     
    上司  なにやってるの、あと1箱あるでしょ。私は箸より重いものは持っちゃいけないっ
       てダーリンに言われてるから・・あんた、だれ?
    司会  通りすがりの峰不二子だそうです。
    上司  私の知ってる不二子ちゃんと違う。
    女   ですよね。
    司会  怪しい。
    女   ですよね。
    上司  体型が違う。
    司会  全然違う。
    女   でしょーね。
    司会  わかった!
    女   わかりました?わたし、着ぶくれするほうで。
    司会  余興の方ですね?
    女   よきょう?
    上司  なんだ、そうか。
    司会  えーと、あれですよね、新婦の友人の、えーと、
    上司  余興ナンバー48,「恋の大泥棒、奴はとんでもないものを盗んでいきました、
       あなたの心です、はいとかいってんじゃねーよスペシャルカリオストロ伯爵と愉
       快な仲間たち」
    女   タイトル、長!
    司会  もっと長いのもあるんです。ほら、これ。余興ナンバー72、「ADB48こと、
       「明るい童貞万歳なんと48歳」さんによる、会いたかった僕の太陽ポニーテー
       ルとシュシュは僕のフライングヘビーローション前しか向かねえ桜の木より鈴掛
       の木の道で君のほほえみを夢に見ると言ってしまったら僕たちの関係は・・・
    女   もういい!
    上司  ちなみに、一番短いのは余興ナンバー83、「GE!」。でもこれはびっくり
       マークを入れると3文字なので、文字の数なら、余興ナンバー92が漢字1文字
       で「紅」って書いて「くれない」、花嫁から新郎を奪い取るゲームらしい。
    司会  くれない?
    上司  あげない。
    女   知らん!てか、余興、多くないか?
    司会  だから、司会のわたしは大変なんです。それなのギャラ、3800円なんです
       よ。
    上司  新郎新婦も大変だね。7時間ちょっとかかるかなかな。お色直し6回あるし。
    女   あいつらは苦しめばいいの。(効果音)
    二人  は?
    女   あいつらは、呪われて当然なのよ。
    司会  えーと・・・
    女   わたしはね、(効果音)明日の披露宴をぶちこわしに来たの。二人の幸せな笑
       顔を涙に変えるために、真夜中の峰不二子に身をやつしてやってきたのよ。
    上司  なんでまた?
    女   知りたい?
    司会  まあ、一応、成り行き上。
    女   驚かないでよ。あの新郎はね、史上希に見る凶悪な二股野郎なのよ・・・驚い
       た?
    上司  まあ、ある程度。けっこう、そういうのってよくある話でねえ。大きな声では
       言えないけど。
    女   よくある話?馬鹿言ってんじゃないわよ。言ったでしょ、史上希に見る凶悪な
       二股野郎だって。
    上司  みなさんそうおっしゃるんですよ。でもまあ、この場合の「史上」って言うの
       は、多くの場合、ただの「自分史上」って話で、二股野郎を40人くらいコレク
       ションして順位をつけることができる人って、その方がたぶん史上希に見るって
       言うか、残念な人というか。
    女   なにごちゃごちゃいってるの。いい?これはね、わたしの友だちのことなんだ
       けどね、一応念を押しとくけど、わたしじゃなくて、わたしの友だちの経験なん
       だけどね、あんた、わかってる?
    上司  よくある前置きなんでちょっと聞き流してました。
    女   わかったかって聞いてるの?
    司会  わかる!
    上司  はいはい。振られたのはあなたではなくて、あくまであなたの友だちだと。
    女   そうよ、親友なのよ。彼女の幸せはわたしの幸せ、彼女の苦しみはわたしの苦
       しみ、ってくらいの。
    上司  はいはい。まあそういうことで。
    女   そのわたしの親友に、あの男が何をしたか。
    上司  はいはい。
     
    歌「ひととき・つれづれ」
     
     あの人はそっとささやく 優しい目でいつもみつめてくれる
     だまされたのは誰? 泣いているのは?
     誰にも言えない苦しみ抱いて震えてる 誰? わたしのわけあるまいし
     笑うなよ ひとときの幻さ
     
     いつまでも離さないと抱きしめた
     嘘つきなのは誰? 優しい人は?
     誰にも負けない幸せ思い描いてた なぜ? わたしらしくありゃせんし
     笑いなよ つれづれのなぐさみさ
     
    司会  いやあ、なんだか楽しくなってきました。
    女   あんた、状況わかってないというか、歌詞、聞いてないわよね。
    上司  みんなそうだと思いますよ。
    女   しょせん人ごとよね。
    司会  そうじゃないんですか?
    女   そ、そうよ。でも、ほら、親友だから。
    上司  で、あなた、明日の披露宴をぶちこわしに来たわけね。
    女   そうよ。
    司会  それは困りました。
    女   なんで。
    司会  何というか、利害関係が対立するというか、敵対するというか、あの、あたし、
       明日の披露宴の司会を仰せつかった者で、いえ、本職はこのあたりのケーブルテ
       レビの新人アナウンサーなんですけど、ウグイスのような美声とさわやかな美貌
       を見込まれて、披露宴の司会という大役を仰せつかったわけで。
    女   バイトね。
    上司  披露宴を成功させるのがわれわれの仕事なの。
    女   だから練習してたのか。前日の夜中に会場まで来て。桃まん、桃まんって
    上司  真摯な態度の表れです。
    司会  桃まんを馬鹿にするな。
    女   ずいぶん自信ないのね。披露宴の司会なんて、ちょちょいのちょい、じゃない
       の?
    司会  そこは、ほら、初々しい新人だし、けっこう明日の披露宴、アブノーマルなん
       で。
    女   ろうそくとムチとか出てくるんだ。
    上司  余興ナンバー23、タイトルは「ひめごと」
    女   なんか、わたしがぶちこわすまでもないような気がする。
    司会  そんなことないです。新郎のおじさんの友だちの隠し芸なんです。
    上司  まあ、かなりぶちこわれていると言えないこともない。
    女   馬鹿なの?明日の出席者は馬鹿ばっかりなの?
    司会  いえ、今回のウエディングセレモニーのテーマが、明るく、派手に、とことん
       ぶっこめ、馬鹿野郎!ってことで、新郎新婦のポリシーだそうです。明日の新郎
       新婦は、ほら、なんというか、
    上司  ファンキーな、ファンタスティックな、クリエイティブな、オリジナリティな、
    司会  人たちなのよ。
    女   まあ、何事も派手な人だった・・・
    上司  あ、ちょっとジェラシーモード、浪花節きたね。
    女   嫉妬じゃないって。むしろ、強い怒りと憤り。
    上司  彼を奪っていった、若く美しいあの女を殺してやりたい!ああ、わたしの美し
       さ、わたしの若さはもう戻ってこない!ああ、あの若さと、あの美しさで、彼女
       は彼を奪っていったのね。
     
    歌「ほら、ホラー」
     
    ぼろぼろ傷ついたハートをえぐり出して 薄笑うあなたに送りつけるの
    リボンをほどいて箱を開けたあなたは あたしのこと少し思い出すでしょ
     
    悲しみ染みついたシミだらけの素肌を はぎ取り血まみれの裸を抱けば
    あなたが生み私が育てた悪魔が泣きながら パパの心臓も食べたいという
     
    ほら、ホラー ほら、ホラー
     
    嘘つく舌先もまさぐる指先も ちぎり取り引き裂き部屋に飾るの
    ねえきれいでしょ
     
    女   なんであんたたちが盛り上がるのよ。
    上司  そういう気分かなと。
    女   とにかく、明日の結婚式&披露宴はぶっつぶす。二人の幸せな笑顔なんて、絶
       対に許さない。
    司会  かわいそうに。
    女   そう、かわいそうなあたしなのよ。
    司会  いえ、新郎、新婦が。
    女   平気で女に手を出して、飽きるとぽこぽこ乗り換える男はね、幸せになる資格
       なんかないの!
    上司  なるほど。
    司会  でも、新婦は。
    女   そんな馬鹿男に引っかかる女なんて、最初っから不幸なのよ!
    上司  あなたも、そうなのでは?
    女   そーなのよ。だからねえ、あたしにはもう失うものなんか何もないの。どんな
       凶悪な犯罪でも犯してやるのよ。あたしはねえ、凶悪犯人なのよ。あの男に復讐
       するためなら、どんな極悪な犯罪でもやってやるんだから。・・・って、あたし
       の親友はそういう気分だと思うわ、うん。
    上司  で、たとえば。
    女   は?
    上司  どうやってぶちこわすんでしょう。どんな極悪かつ凶悪な犯罪が繰り出される
       のでしょう。
    司会  わくわく。
    女   そんなこと、言うわけないでしょ。
    司会  なんでですか?
    女   あんたら、敵だもん。手の内見せたら、くい止めるでしょ。正義の味方ずらし
       て、あのバカップルを助けようとするでしょ。
    上司  まあ、仕事ですから。
    司会  披露宴なくなったら、バイト代はいらないし。
    女   あ、やっぱバイトなんだ。普段は、事務員かな。
    司会  失礼ね、カリスマお茶くみよ。
    上司  差別ではないですよ。わたしも女性だし、若くて美しいのに偉いですし、能力
       に合わせて仕事を割り振っているだけですから、当社では。・・・で、どんな手
       を使うんですか?
    女   は?
    上司  披露宴つぶすのに。
    女   だから言うわけないでしょ。あんた、馬鹿なの。
    上司  わかりました。敵ですからね。
    女   そうよ。敵に手の内を教えるほど、あたしは甘くないの。
    上司  では、聞きません。わかりました。君、教えてくれないんだって。
    司会  残念ですね。知りたかったなあ。
    女   そんなに知りたい?
    上司  でも、教えてくれないんですよね。
    女   当たり前でしょ。
    司会  残念。きっと、ものすごく凶悪で極悪で残虐でわいせつな犯罪なんでしょうね。
    女   そ、そうよ。
    上司  残念。
    女   たとえばね、
    上司  あれ、教えないのでは?
    女   教えないわよ。だから、たとえば、たとえばって話よ。
    司会  たとえば?
    女   そう、たとえば、よ。知りたい?
    司会  知りたい!
    上司  いや、無理にとは。
    女   見てらっしゃい。じゃーん。
    司会  なんですか?
    女   ブーブークッションよ。
    上司  ブーブー?
    司会  クッション?
    ふたり  は?
    女   これを、花嫁の座る椅子の上に仕込むの。
    上司  花嫁、ですね。
    女   新郎新婦入場する。(音楽)笑顔を浮かべて高砂の席に着く、拍手の中お辞儀
       をする、そして座る!
    二人  座る!
    女   響き渡る間抜けなブー!(効果音、音楽止まる)
    司会  どうしましょう、あたくしとしたことが。あたくし、もうお嫁に行けない!
    上司  (音楽)もう来てるじゃないか、オ、マ、エ。
    司会  オマエ、だなんて、そんないきなり。
    上司  みなさん、今の音、えー、大腸から空気がほとばしるその音は、けっして彼女
       のものではありません。犯人は僕です。神に誓って、今のブーは僕が、僕が鳴ら
       しました。責めるなら、僕を責めるがいい、彼女は、彼女は無実です。
    司会  よ!日本一!
    上司  あいつは、いい夫になるのお。
    司会  あたし、惚れてしまいそう。
    上司  花嫁がうらやましい。
    司会  みなさま、ご覧ください。なんということでしょう。何という感動でしょう。
       新婦のかわいらしいハプニングが、ふたりをますます強く結びつけました。なん
       と素晴らしいお二人でしょう。なんて紳士な新郎でしょう。ごらんください、こ
       の幸せそうな二人の姿を。
    上司  よ!日本一!
    女   (音楽止まる)何でこうなるの!
    上司  いやあ、ちょっと調子に乗りすぎでした。
    司会  そうですよ。
    上司  しかしそもそも、新婦の椅子にはお付きの人がついていますからね。何かあっ
       たらすぐにばれますね。
    女   そうなの?
    司会  それに、うちの会場音楽大きめだし、みんな拍手してるから、こんなクッショ
       ンの音じゃ全然聞こえないと思いますよ。かき消されちゃって。
    上司  残念でしたね。
    女   ・・・だから、たとえば、の話なのよ。じゃあね、じゃあ、これも、たとえば
       なんだけど、じゃ、じゃーん。
    司会  なんですか?
    女   強力下剤。
    ふたり  ゲザイ?
    女   動物園で開発された、ゾウにも効くって強力な代物よ。これを、花嫁の飲み物
       に仕込む!
    上司  やっぱり花嫁なんだ。
    司会  嫉妬ですかね、やっぱ。
    女   長い主賓の挨拶、長い乾杯の挨拶、もじもじする花嫁が見えるようだわ!
    上司  残虐!
    司会  極悪!
    女   高砂にいる花嫁は、行きたいからって会場から出るわけにはいかない。しかも!
    二人  しかも?
    女   真っ白なドレスに身を包んでいる。くくく。
    上司  凶悪!
    司会  わいせつ!
    女   どうかしら、あたしの復讐の味は!(効果音)
    上司  申し訳ないんだけど、
    司会  長い主賓の挨拶も、乾杯の音頭も、ドリンク前に終わっちゃうんですよね。
    女   そうなの?
    上司  乾杯してから乾杯の挨拶してどうするの。
    司会  それに乾杯の時のシャンパンって、その場で栓を抜くから、何か入れるの無理
       なんですよね。
    女   じゃあ、グラスに仕込むわよ。
    上司  うちのグラスはひとつひとつ手作業でぴかぴかに磨きますから、何か入ってい
       たらすぐわかります。一点の曇りも許しません。
    司会  それにね、ふつう花嫁って飲まないんだよね。口つけるふりするだけで。
    女   そうなの?
    上司  残念でした。そろそろ、下ネタから離れたらいかがでしょう。
    司会  好きなのはわかるけど。
    女   好きじゃないわよ。・・・あくまで、これは「たとえば」だから、本気でそん
       なこと考えてるわけないでしょ。じゃあねえ、驚かないでよ。たとえばなんだけ
       どね、じゃ、じゃ、じゃーん!
    司会  なんですか。缶?
    女   コショウよ。それも業務用特大よ。これをどこに仕込むと思う?
    上司  どこでしょう?
    司会  桃まんじゃないですよね。
    女   花嫁の読む手紙よ。
    上司  また花嫁か。
    女   披露宴の一番盛り上がり、かつ感動的、かつフィナーレを飾る花嫁の手紙。
    司会  (音楽)今日この瞬間のために、今まで育ててくださったお父さん、お母さん
       へ、花嫁が手紙をしたためて参りました。式の最後に、新郎が温かく見守る中、
       花嫁ご自身に、その手紙を読んでいただきましょう。
    上司  おお、感動だ。
    司会  お父さん、お母さん、あたし、手紙を書きました。とっても恥ずかしいけど、
       感謝の気持ちを込めて読みたいと思います。
    上司  そうか、おまえも字が書けたんだな。クレヨンでママの怖い顔ばかり書いてい
       たのに。
    司会  あーた!
    上司  と、和やか、かつ幸せな雰囲気の中で、花嫁が封筒から手紙を取り出しそっと
       開く!(効果音。音楽止まる)
    女   飛び散るコショウ!舞い散るコショウ!くしゃみ!くしゃみ!くしゃみの嵐!
       花嫁も花婿も涙とよだれと鼻水でベロベロ、ドロドロになって、グチュグチュ、
       ギトギトになって、愛と感動の儀式は、お笑いと軽蔑のショータイムに変わるの
       よ。どう?完璧な極悪でしょ。
    二人  ナイス極悪。
    女   思い知ったか、裏切り男!ざまあみろ、横取り女!
    上司  いやあ、すばらしい。
    女   見直した。
    上司  見直しました。ただ、残念なことに、
    女   なによ。
    上司  本当に残念なんですが、
    司会  花嫁の手紙、ないんです。
    女   はあ?
    司会  今回、花嫁、手紙書いたり読んだりしないんです。
    女   なぜ?まさか、花嫁、字が書けないの?それとも字が読めないの?自分が書い
       た字が?
    上司  極度のあがり症で、人前でそういうの、ダメなんだそうです。いやあ、お薦め
       はしたんですけどね。
    司会  あ、あたし、そういうの苦手なんで。パパも照れちゃって、「そんなのどうで
       もいいよ」って。
    女   そういう親父に限って、あとでグダグダ言うんだよ。ホントはやって欲しがっ
       ているんだよ。
    上司  そうでしょうか?
    女   あんたら、ちゃんと勧めたの?
    上司  勧めましたとも。誠心誠意、会の盛り上がりと親への感謝、スポットライトを
       浴びる快感や花嫁の涙がいかに美しいか、もう、全身全霊で。でも、
    司会  「あたし、パス」
    上司  だそうです。
    女   だめか。
    上司  ダメですね。残念です。
    女   完璧だと思ったんだけどな。
    司会  まあ、なんというか小学生のイタズラレベルですけどね。
    上司  それも低学年の。
    司会  ガキの遊びってやつ?
    上司  それも低レベル。
    女   披露宴なんか、つくるのは大変だけど、こわすのは簡単だと思ってたんだけど。
    上司  犯罪計画も同じです。つくるのは大変だけど、こわすのは簡単。
    司会  しかも、こわすのは快感。
    上司  人生の真理です!
     
    歌「ガンバレ、あたし」
     
     つくるのは大変 こわすのは簡単 つくるのは一苦労 こわすのは快感
     
     10キロ先のスーパーがジャガイモ8円安いなら
     チャリンコまたがり出かけてく 通帳開いておお倹約 ガンバルあたし
     やっと20万貯まる頃 出会ってしまったステキなバッグ
     運命なのよと言い聞かせ とうとう開いたお財布 明日があるさ
     
     ケーキもチョコも我慢して 休みの日にはジム通い
     この一口でブタになる つぶやきながらダイエット ガンバレあたし
     友だちと来た吉祥寺 誘われ入ったバイキング
     今日は特別と言い聞かせ 山と積まれた空の皿 ケーキは別腹で
     
     つくるのは大変 こわすのは簡単 つくるのは一苦労 こわすのは快感
     
     やっと見つけた愛なのに 大事に育てた夢なのに
     さよならの一言だけで あっさりさっぱり消え失せた マケルナあたし
     確かに格好つけていた 見栄も少しは張っていた
     二人でつくったアルバムに 爆弾仕掛けて木っ端みじん すがすがしいね
     
     つくるのは大変 こわすのは簡単 つくるのは一苦労 こわすのは快感
     つくるのは大変 こわしたらそれまで
     
    女   今、「爆弾仕掛けて」って歌った?
    司会  はい。
    女   「爆弾仕掛けて木っ端みじん」って。
    司会  はい。
    女   なんでわかったの?
    司会  は?
    女   爆弾、仕掛けたって?
    上司  爆弾?
    司会  仕掛けた?
    女   そう。
    二人  爆弾仕掛けた?
    女   爆弾仕掛けた。
    二人  どこに?
    女   ここに。
    司会  うそお!
    上司  止めなさいすぐ止めなさい止めてやめて木っ端みじんやだ止めなさいすぐやめ
       なさいとめなさいほら止めなさい!
    女   大丈夫、まだ起動していないから。
    上司  止めなさいすぐ止めなさい止めるの止めないとやだ止めるの!
    女   だから、まだスイッチ入れてないって!
    司会  あのお・・・
    上司  いえ、何でもありません。わたしとしたことが、取り乱して。
    女   スイッチ、入れちゃおうかなぁ。
    上司  やめなさいやめなさいスイッチだめ木っ端みじんやだやめなさいとめなさいと
       めて。
    女   おもしろいね、この人。
    司会  意外な弱点を見つけちゃった。
    上司  スイッチはどこ!
    女   そんなものありません。
    上司  あ、スイッチないんだ。じゃあ大丈夫じゃない。なあんだ、スイッチないんじゃ
       爆発しないじゃん。木っ端みじんないじゃん。
    女   スイッチを入れると5分で爆発するの。こんなちっぽけな会場、粉々になるの
       よ、花嫁花婿もろとも、木っ端みじんよ!
    司会  かわいそうな司会者も!
    女   もちろん!
    司会  あああ!
    上司  でも、スイッチないんですよね。爆発しないんですよね。
    女   あのね、時代は進んでいるの。あたしの作った爆弾は、音声入力システムが組
       み込まれているの。あらかじめ設定された言葉を感知すると、スイッチが入るの
       よ。
    司会  どういうことですか?
    上司  音声入力システムって、「OKGoogle」とか「heySIRI」とかいうものですか?
    女   ピンポン!
    上司  高度ね。
    女   理系ですから。
    司会  つまり、合い言葉を言うとスイッチが入るわけ?
    女   そうよ。高度なの。スイッチが入ったら、5分後に大爆発するのよ。
    上司  合い言葉は何!
    女   知りたい?それはね・・・
    ふたり、全力で女を止める。
    司会  間違えて言わないようにしなくちゃ。
    女   合い言葉は、披露宴で一番盛り上がる言葉よ。必ず奴らが口にする。そうした
       ら自動的にスイッチが入って5分後にドカン!極悪でしょ。
    司会  披露宴で盛り上がる言葉?
    上司  必ず奴らが口にする?
    司会  たとえば・・・
    上司  言うな!スイッチが入る。
    司会  そうか。
    女   そうよ。今言わないでね。この爆弾は、花嫁花婿を狙ったものだから。あんた
       たちが木っ端みじんになっても、誰も喜ばないわ。
    二人  もちろん。
    女   披露宴も大いに盛り上がったころ、馬鹿な司会者が聞く。「プロポーズはいつ
       ですか?」「えっと、今年の初めの、あたしのお誕生日にレストランで」「いや
       あ、うらやましい。で、彼はなんと言ったんですか」「え、恥ずかしい」「いや
       あ、僕もう覚えてないです」「そんなはずはないですよね、みなさん、お聞きに
       なりたいですよね、さあ、ここでプロポーズの再現です。みなさん、拍手!」
    司会  台本の98ページにありますね。
    上司  そのプロポーズの言葉が合い言葉ですか?
    女   そうよ。
    司会  なんでその言葉をあなたが知ってるわけ?
    女   後ろの席で聞いてたからよ。
    司会  あ、ストーカー!
    女   あいつ、あたしに言ったのと同じ言葉を言いやがった。
    司会  「君の笑顔をずっと見ていたい」
    上司  やめろ!
     
      間
     
    司会  違ったみたい。
    上司  君はいったいなんてことをするんだ。
    女   そんな、ありふれた言葉じゃないわよ。馬鹿にしないでよ。
    司会  そうか・・
    上司  なに当てようとしてるの!
    司会  「絶対幸せにするよ」
     
      間
     
    司会  はずれ。
    上司  君はいったい何をしたいの?
    司会  なんか悔しくて。
    女   モテない人生だったのね。
    司会  カチーン!「一緒にゼクシィ買いに行こう!」
    上司  絶対違うと思う。
    司会  「薬指のサイズを教えて!」
    女   外れ!
    上司  「君の作ったぬか漬けを一生食べたい」
    女   なにそれ?
    司会  「君の膵臓が食べたい!」
    女   きもい!
    司会  「君を幸せにできるのは僕だけだ」
    上司  「僕を幸せにできるのは君だけだ」
    女   もっとずばりと。
    司会  「一生君を大切にするよ」
    上司  「僕の子どもを4人育ててくれないか」
    女   男らしくない!
    司会  「家族になろうよ」
    上司  「キャンユーセレブレイト?」
    女   なんか疲れてきた。
    司会  「結婚しようよ」
    上司  「俺についてこい!」
     
      ピー!ピー!という音。
     
    爆弾  爆発まであと5分。
    司会  正解!
    上司  やったー!
    司会  しかし、すげえベタですね。
    上司  単純すぎて盲点だったね。
    女   なにやってるの!
    司会  スイッチはいった!
    上司  止めてやめて止めなさいやめてったら止めて!
    女   逃げよう。
    司会  逃げますよ!
    上司  やだこわいドカンきらい止めてやめて木っ端みじん止めて止めなさい!
     
      司会、上司を平手打ち。
     
    司会  逃げますよ。
    上司  はい。
     
      3人、裏口側へ向かう。
     
    司会  (声)あかない!
    女   (声)何で!
    司会  (声)鍵かかってる!
    女   (声)何で!
    上司  (声)出しててやめて出してよ開けて出しなさい止めてやめて!
    二人  (声)開けて出して止めて開けなさい開けて出して止めて!
    爆弾  爆発まで、あと4分です。
     
      女、他の二人を引きずりながら戻ってくる。
     
    女   なぜ外から鍵がかかってるの!
    上司  先ほどの荷物運びが、間違えて閉めたのでしょう。
    女   間違えるか!
    上司  そういう人なんです、松井さんって。先日も・・・
    女   うるさい。すぐ開けてもらって。
    上司  なるほど。
     
      上司、電話をかける。
     
    上司  あ、松井さん?え?運転中?わかりました、かけ直します。
     
      上司、電話を切る。
     
    女   あんたは馬鹿決定!
    司会  ほーんと馬鹿。
     
      上司、電話をかける。
     
    上司  松井さん?すいません、運転中に。あ、スピーカー大丈夫?いやあ、さすがで
       すね。松井さん、さっき外から鍵かけちゃったでしょ。・・・そう。そうです。
       ・・・今度、おごりですよ。もう、困ったさんなんだから。すぐ戻ってきて開け
       てくださいよ。・・・報告なんかしませんよ。貸しにしときますよ。はい、はい。
       じゃあ、待ってます。
     
      上司、電話を切る。
     
    上司  20分くらいかかるそうです。
    司会  あたしたちの切れっ端を拾いに来るのね。
    女   爆発に巻き込まれる心配はなさそうね。
    上司  えーっ!20分じゃ間に合わないじゃない!やだ止めて止めなさい死にたくな
       い止めなさい爆弾きらい爆弾大嫌い止めなさい止めて止めて!
    爆弾  爆発まであと3分。さて、ここでラッキーチャンスです。
    二人  ラッキーチャンス!
    爆弾  実は!
    二人  実は?
    爆発  爆発を止めるパスワードがあります。
    二人  パスワード!
    爆発  パスワードを大声で叫ぶと爆発が止まります。
    司会  おお!
    爆発  では、健闘を祈ります!
    上司  パスワードは何?
    女   うーん。
    司会  爆発を止めるパスワードですよ。
    女   そんなの、あったかな。
    上司  忘れたの?
    女   うーん。
    司会  忘れちゃったのね!
    女   うん。
    上司  やだ止めて止めなさい死にたくない止めなさい爆弾きらい爆弾大嫌い止めなさ
       い止めて止めて!
    爆弾  パスワードのヒントを差し上げます。
    二人  ヒント!
    爆弾  第1ヒント。それは、新郎の欠点を表す言葉です。
    女   そうか!
    爆弾  以上です。
    司会  第2ヒントはどうした!
    上司  第3は!
    爆弾  以上です。
    女   あいつの悪口を言えばいいのよ。
    上司  思い出せないんですね。
    女   頭いいわよね。披露宴で、新郎の悪口ワードなんてまず出ないものね。パスワー
       ドとしては完璧だわ。
    上司  披露宴が修羅場になりますね。
    爆弾  爆発まで、あと2分!
    司会  でぶー!
    女   ぶすー!
    上司  ばかー!
    女   はずれみたい。
    司会  根性なし!
    女   口さき男!
    上司  へんたーい!
    司会  嘘つきー!
    女   根性なし−!
    上司  服装センスゼロ!
    司会  うんこたれー!
    女   おかちめんこー
    上司  どへんたーい!
     
      以下、悪口が続く。
     
    爆弾  爆発まで、あと1分!いよいよです。
    司会  なんか、ネタが尽きた。
    女   悪口ならどれだけでも言えると思ってたのに。
    司会  案外出てこないものですね。
    女   なんか、思い出すのもつらくなってきた。なんか、悪口を言おうとすればする
       ほど、かえっていいところを思い出しちゃって。
    司会  でも、悪口がパスワードなんですよね。ほんとに、思い出せないんですか?
    女   なんか、心のどこかで鍵をかけちゃっているのかもしれない。
    司会  鍵?
    女   その言葉を言うのがつらすぎるから。
    爆弾  爆発まで、あと30秒。残念でした。
     
      間。
     
    上司  「馬鹿野郎!優しすぎるんだよ!」
    爆弾  パスワードを確認しました。爆発を中止します。お疲れさまでした。
     
      間。二人、上司を見つめる。
     
    女   あんたもさ、いろいろあったんだね。
     
    歌「その夜のこと」
     
     はじめから無理とわかってた 言い聞かせた
     似合わない二人みんなそう感じていた
     並んで歩くときは胸ときめかせ
     けれどもどこかで言い聞かせてた いつかは消えゆく恋
     
     「どんな幸せもひとときの幻だ」と
     慣れてしまわぬように いつも終わりを心のどこかであきらめさせた
     鏡を見つめた夜
     
     だから「さよなら」も予想したとおりに 当たり前みたいに
     
     餌を求める小鳥のヒナのように おもちゃ売り場で泣く子どものように
     求めてる探してる消えてしまったもの
     
     はじめから無理とわかってた 言い聞かせた
     それでもどうして悲しいの?悔しいの?
     涙も枯れ果てた夜
     
    司会  いろいろあるんですよね。
    上司  ・・・いろいろあったね。
    司会  でも、頑張るんですよね。
    上司  ・・・うん、頑張ったね。
    司会  生きてるんですからね。
    上司  ・・・生きてかなきゃね。
    司会  幸せは歩いてこない、ですよね。
    上司  こっちから行かなきゃ。
    司会  美しく、そしてはしたなく?
    上司  はしたなく、そして美しく。
    司会  ご褒美だってもらえますか?
    上司  ・・・あんたも、ね。
     
    歌「 わたしはわたし」
     
     わたしはわたし・・・ 暗闇の中 自分の声が聞こえてきた
     寂しくて苦しくて消えてしまいたい
     わたしはわたし・・・ この痛みさえ自分だけのものだから
     自分からは逃げ出せない だから抱きしめよう
     わたしはわたし・・・ 傷ついて流した血潮さえ生きている証だ、と
     痛みが教えてくれる
     わたしの幸せはわたしが決める
     
     昨日見た夢は壊れたおもちゃ箱のように(おもちゃ箱の中)
     鈍い痛み残してかすかな光に変わる
     わたしの生き方はわたしのもの
     わたしの行く道はわたしの わたしだけのもの
     
      上司の電話が鳴る。上司、出る。
     
    上司  はい。あ、どうも、こんばんは。明日はよろしくお願いいたします。・・・
       え?キャンセル?
    司会  キャンセル?
    上司  キャンセルって、あの、中止ですか?
    女   へ?
    上司  逃げた?男が?はあ。・・・・そこは、あの、私どもに言われましても・・・。
    女   換わって。
    上司  えーと、まずは深呼吸しましょう。はい、深呼吸。
    女   換わって!
     
      女、上司から電話を奪い取る。
     
    女   あんたさあ、いい、死んじゃだめよ。死んだらだめなんだからね。「生きろ!」
       って、ジブリも言ってたでしょ。生きてないとね、見返してやることもできない
       んだからね。生きてさ、見返してやるんだからね。幸せになっちゃうんだからね。
       大丈夫、よくあることだから。・・そう、よくあることって言ってるの。あんた
       ひとりじゃないからね。大丈夫、ドタキャン保険とかあるから。死んだら誰が保
       険請求するの!・・・わかった。よし、今からここおいで。そう、今から。飲も。
       朝まで飲も。ぎゃんぎゃん飲んで、がんがん毒吐いて、わんわん泣いて、それで
       忘れちゃお。うん、こっち3人。朝までつきあうから。すぐおいで。タクシー拾っ
       てすぐ来い!・・・あたし? 通りすがりの峰不二子。待ってるからね!
     
      女、電話を切る。
     
    司会  あたしたち、朝までつきあうの?
    上司  ドタキャン保険って何ですか?そんなもの、ないですよ。
    女   あっち、厨房だよね。冷蔵庫の中、上等なワインがいっぱいだよね。
    司会  飲みますか。
    女   つまみは?
    上司  この箱、開けてみません?
    女   食べ物なの?
     
      司会、箱のひとつを開ける。
     
    司会  なに、これ。
    上司  マメ桃まん!
    女   うわ!食べられるの?
    上司  粒あんと桜あんの2種類です。
     
      司会、中から何かをつまみ出す。
     
    司会  これは?
    上司  桃まんマンですね。おかしいな、キン肉マンっぽい。
    女   かわいくないんだ。
    司会  ねえ、見て。
    上司  なに。
    司会  この顔、新郎そっくり。
    上司  そうですね。サプライズですね。
    女   貸して。
     
      司会、桃まんマンを女に渡す。
     
    女   ほんと、そっくり。
     
      女、おもむろに桃まんマンを床に置き踏みにじる。
     
    女   く・た・ばっ・ち・ま・え。
     
      二人、拍手。
     
    司会  さて、宴会準備ですね。
    女   ワイン、取りに行こう。
    上司  俺についてこい!
     
      ピー!ピー!という音。
     
    爆弾  爆発まであと5分。
     
      「あんたは馬鹿決定!」「ほんと馬鹿!」「優しすぎるんだよ!」「あたしはそん
      なに甘くないの」と騒ぐうち、幕が降りる。
     

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